中村憲剛のイクメン対談 第3回 江口有香さん
VOL.2「ジャンルを超えた取り組みを」

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――お子さんは小さい頃から音楽をやっていたんですか?

江口:音楽は、しょっちゅう聴かせていました。音楽や絵画、本を読むことが一番の情操教育だと思っているので。自分が抱っこして踊っていたら、リズム感だけは良くなりましたね。

――本と言うと、ご紹介したい本があるんですよね。

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江口:そうなんです、『かーくん』という絵本です。この絵本は、『児童養護施設』というタイトルで絵本コンペを行った際に、最優秀賞に輝いた本なんです。

中村:『かーくん』の存在自体は、HPで拝見しました。

江口:養護施設のお子さんが主人公で、その子が水をかけたり友達の食べ物を取ったり、悪いことをするのですが、実はすごく寂しかったんだというお話です。悪い子なのではなく、寂しくて愛情を求めている子どものことを書いた本なんです。これを読むと泣いてしまうんですが、その通りなんですよ。虐待を理解してもらうために、広めていくのはいいことですよね。

中村:みんなに知ってほしいと思いました。

江口:虐待していても、その意識がないことが一番の問題だと思います。それはダメなことだよって気付いてくれれば、まだ救えるんですけど。
実はこの本のモデルになった子は、虐待が原因で亡くなってしまったんです。絶対に起こしてはいけないことですよね。でも現実問題として、そういうことが起こっている。だから、色んな人にこの本を読んでもらいたいです。

――中村憲剛さんはお子さんが小さい頃は本を読んであげたりしましたか?

中村:今でも読みます。寝る前には必ず。読めってうるさいんですよ(笑)。上の子は最近ひらがなが読めるようになってきたので、一人で声出して読んでますね。いつもはペラペラ喋るのに、読む時は一文字ずつなんです。不思議ですよね。

江口:読む時は慎重なんですね。

中村:息子は長男なので、慎重ですよ。『かーくん』は帰って読んであげようと思います。

江口:これと『スーホの白い馬』という本はおススメです。

中村:でもこの本を読んで、子どもは理解してくれるでしょうか?

江口:分からないかもしれないです。『かーくん』のような子は実際に多いですけど、子どもって幼いうちは、そのツールを辿るところまでの余裕がまだないじゃないですか。本人たちが自覚して読めるようになるのは、小学校高学年くらいかな。

――江口さんは実際ソーシャル・アーティスト・ネットワークで、虐待されたり育児放棄された子どもたちと触れ合っていらっしゃいますが、その経験を通して感じたことはありますか?

江口:「どんな親でも、親がいいんだ」というのは、触れ合って毎回実感します。私は未就学児を担当しているので、特にそう思いますね。親御さんも大変だと思うけど、なるべく抱っこしてあげてほしい。例えば、ヴァイオリンを教える時でも、抱っこしながら一緒に弾いたり。親の愛情に飢えてるんです。

――音楽界の方々にも色々と活動を呼びかけていると思うんですけど、反応はいかがですか?

江口:世界的に見ると、五嶋みどりさんという方が障害者たちのオーケストラを作ったりされていますが、そういう活動が少しでも日本で増えて欲しいと思います。

中村:皆でもっと色々な取り組みができればいいんですけどね。

江口:そうなんです。少しでもそういう動きがあればありがたいんですけど、なかなか難しいですね。自分の子どものことで精一杯なのはわかります。少し子どもの手が離れたくらいのお父さん、お母さんがやってもいいのかなとも思うんですけど。
でも中村さんの奥さまも、子どもの手がかかる時期によくやっていらっしゃって凄いなと思います。

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中村:支えてもらってばかりですね。ピンクアンブレラ運動は、もともと川崎フロンターレの虐待防止の仕事がきっかけで始まったんですけど、こうやって江口さんとお話したり、ソーシャル・アーティスト・ネットワークさんとつながったりと、少しずつ輪が広がっていけばいいんじゃないかと思っています。虐待に解決策はないですけど、自分たちが問題提起することで、減らせるきっかけにはなると思う。この対談も、まず2人が話したということが大事で、これを見た人が江口さんのHPに飛んだりすれば、つながりが広がっていきますよね。

江口:ありがたいですよね。

中村:皆、虐待は悪いことと知っていながら、あまりにも大きな問題だから足踏みをするじゃないですか。でも誰かがやらないといけない。音楽界とスポーツ界、ジャンルにこだわらずに皆で取り組んでいければと思います。

江口:施設の子どもが増えていってしまうのは、残念ですもんね。

中村:去年の年度末に、初めて川崎の児童養護施設に行きました。これからも機会を見つけて行きたいと思っています。スポーツ好きな子どもも多かったです。喜んでくれました。それだけでも自分が行く価値があるなと。それは江口さんの活動も一緒だと思いますけど。

江口:それはあるかもしれないですね。でもまだ分からないこともありますよ。子どもたちは「その楽器は何?」という次元なので、どこから教えようとか、まだ少し手探りな部分もあります。

中村:興味を持ってくれるのはいいことですよね。それがきっかけとなって、音楽家やサッカー選手を目指していってくれたら嬉しいし、その手助けができばいいなと思います。

江口:自己啓発や自己肯定感は何かに興味を持つことによって、育てられるんじゃないかという考えも出てきているので、是非そうなってほしいです。また、子どもたちと寝泊まりも一緒にされている職員の方がそういう風に理解してくださっているので、連携するのが望ましいんですけどね。具体的に子どもに何かやらせるのって難しいんですよ。

中村:本人たちにその意欲がないとだめですしね。でも僕たちが施設に行かなければ、身近にならないから、行動に移すことが大事なんだなと、去年の施設訪問の時に実感しましたね。

江口:ビッグなサンタクロースさんだったんですね。

 

江口有香
■江口有香 Yuka Eguchi,Violin
3歳よりヴァイオリンを始める。桐朋女子高等学校音楽科に在学中、第55回日本音楽コンクールヴァイオリン部門にて第1位(1986年)。その後渡米し、インディアナ州立大学音楽学部に入学、在学中にワシントン国際コンクール第4位(1991年)。同大学を卒業後、同年パガニーニ国際ヴァイオリンコンクール第3位(1993年)。帰国後は、ソロ活動の他、アンサンブル活動や後進の指導にもあたるなど、幅広く活躍。2006年~2011年、トウキョウ・モーツァルト・プレーヤーズ・コンサートマスター。2007年~2014年、日本フィルハーモニー交響楽団ソロ・コンサートマスター。現在、国内外のオーケストラのゲストコンサートマスターを務める。2013年に「東京トリオ」を結成(Pf.鳥羽泰子、Vc.江口心一)、ソロ活動や室内楽活動にも取り組んでいる。桐朋学園子どものための音楽教室非常勤講師。また、多くのCDもリリースされており、「ツィゴイネルな世界」「ヴィラ=ロボス・vl.ソナタ集」(Pf.村上巌)「小品集メヌエット」(Pf.渡邊一正)「無伴奏ヴァイオリン名曲集・庭の千草」「ジャパニーズ・チルドレンズ・ソング」(編曲・守田裕美子)「チェロとヴァイオリンのための二重奏曲集」(Vc.江口心一) 「Meditation」(Pf.藤田雅)が、いずれも Crown Tokuma, King International より発売中。

これまでに、ヴァイオリンを蔵持典与、安田広務、故・鈴木鎮一、小林健次、故・J.Gingold、 故・F.Gulli 、 Yuval Yaron、室内楽を 故・J.Starker, 故・G.Sebok各氏に師事
ソーシャル・アーティスト・ネットワーク http://www.socialartists.net/

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