中村憲剛のイクメン対談 第4回 森沢明夫さん
総集編

中村憲剛&森沢明夫さん

毎回、中村憲剛とスペシャルなゲストが、育児の楽しさや喜びについて話し合う「中村憲剛のイクメン対談」。第4回は『津軽百年食堂』や『虹の岬の喫茶店』、『あなたへ』などを発表されている作家の森沢明夫氏にお越しいただきました。2009年発行の『永遠のサッカー小僧 中村憲剛物語』の執筆のため、中村憲剛選手に密着取材した縁で交流が始まり、現在も仲良くされているお2人。和気あいあいとした雰囲気の中、子どもたちの未来を語ってくれました。

――お互いの印象はいかがでしたか?

森沢:普通のお兄さんでした(笑)。飾ってなくて、カッコつけてなくて。一番びっくりしたのが、試合の時ですね。絶対負けないという“戦闘オーラ”が出ていて、こんなに変わるんだって思いました。ちょっと声をかけづらい、気合の入った感じでした。

――中村選手はどんな印象を?

中村:文章からは想像できないような無骨な人(笑)。自分のイメージしていた作家さんらしからぬガチムチな人だったので、驚きました。歳も10こくらい離れているんですけど、凄く話しやすかったです。

森沢:違和感ないですよね。

中村:僕は元々歳の離れた姉がいて、年上と話すのは苦じゃないので。この人はいける人だなあって。この人なら自分の内実を見せられるな、気取らなくていいなというのがありました。

森沢:すごく信頼してもらった感じがありました。

――普段から頻繁に会っているのでしょうか?

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中村:いや、お互い忙しくて、なかなか会えてないです。こうやって腰を据えて話すのもすごい久しぶりです。

森沢:このあいだフロンターレの試合を見に行った時に、久々に少し会話をしたくらい。

中村:メールとか連絡はちょくちょくしているんですが、お互いがお互いの活躍を見ているから、また映画化してるなぁ、また本売れてるなぁって。本屋に行ったらわかりますし。

森沢:読んでくれてるの?

中村:もちろん。溜まっているけどね。「出版が早いよ!」って。映画に吉永小百合さんが出るって聞いた時は、ちょっと僕はもう声かけられないな、遠いところに行ったなぁと思いましたよ(笑)。

森沢:どこにも行かないよ(笑)。

――育てについてもお聞きしたいのですが、お子さんたちが夏休みに入り、一緒にいる時間が多くなったのでは?

中村:1日中家にいるので大変!森沢さんの息子さんみたいに、サッカー行ってくれればいいけど、ウチはまだべったりですからね。どこ行くにも連れて行かないといけない。頭を悩ましてます(苦笑)。

森沢:僕は普段から家で仕事をしているので、夏休みだからといって、いつもと変わらないです。今、上の子が中学2年の女の子で、下の子が小学4年の男の子なんです。そのくらいの歳になると、上は自分でクラブチームのサッカーに行って塾行って友だちと遊んで、お祭りに行ったりしています。下は週に6、7回サッカーやっていますね。

中村:ほぼ毎日ってことですね。僕もそんな小学生だったなぁ。

――森沢家独自の子育て法とかあれば教えてください。

森沢:親に愛されているという自信だけは持たせてあげるようにしています。人生で何があっても、親だけは絶対自分のことを愛してくれるという自信。上の子も下の子も僕が寝かしつけていたんですが、「パパとママの子どもに生まれてくれてありがとうね」って言いながら、頭をなでたりしていました。自分が生まれてきたことを親が喜んでいる、そういうふうに理解させたいというのがあります。

中村:いい話だなあ。大事ですよね。

森沢:子どもにそれを言ってあげると、すごく落ち着くんですよね。子どもは子どもで学校で喧嘩したりいろいろあるわけで。でも、そういう言葉をかけてあげると、落ち着いて寝られるみたいですね。

――ちゃんと言葉にするっていうのは素敵ですね。

中村:大事ですよね。こっちが思っているだけじゃダメだと思います。それを行動で示さないと、気づかなかったりわかってなかったりします。ウチの子が天然なだけかもしれないけど。

森沢:あと、上の子を寝かしつける時には、絵本じゃなくて毎日即興で物語の口述をやっていました。

中村:それは中々僕できないって(苦笑)。

森沢:当時『パパズストーリー』って言っていて、娘が主人公の物語を即興で考えて、毎日聞かせていたんです。ストーリーは毎回違ったり、続きモノだったり。絵本だと電気をつけて読むけど、電気消して寝かせたい時は、「目をつぶってね」って言って喋っていました。物語を毎夜1本か2本ひねり出していたので、それが今の仕事にすごく活きてるなと思います。

中村:森沢さんにね。

森沢:まさかあの体験が物語を作る訓練になるとは思わなかった。正味、3年くらい続けたかな。年間300日やったとしても1000本近い話を創ったことになる。1000本ノックをやっているようですね(笑)

中村:娘さんはそれを覚えている?

森沢:うん、話の内容まで覚えていたりするね。こういうストーリーで、こういうキャラクターいたよねとか、いまでも話すよ。

中村:僕には無理だな(苦笑)。やってみようかな、いや、無理だな。

森沢:憲剛は、子どもにどうやって物事を伝えてる?こういうふうにするといいよとか、物の考え方とか。

中村:結構いっぱしの口きいてるから、適当な返事や話し方はしないようにしています。彼らの言うことに対して、軽く「分かった分かった」とあしらうんじゃなくて、真摯に、なんでこうなったのか?とか、じゃあどうしようとか。そういうのはちゃんと言うようにしています。

森沢:僕は叱る時、「こら!」と言って怒るだけじゃなくて、なぜそれをやっちゃいけないのかちゃんと言うようにしているかな。叱るというよりは教える感じ。あと、ぼくは小説家なので、小説で伝えたいって思います。じつは僕の小説って、半分は将来の自分の子どものために書いているんです。「こうやって生きると素敵だよ」というメッセージを物語にたくさん詰め込んで、半分は「遺書」のつもりで書いているんですよね。

森沢:憲剛のところの下の子は何歳だっけ?

中村:年少で4歳。

森沢:以前、京都大学の名誉教授の大島先生が教えて下さったんだけど、子どもって3歳までに「潜在脳」が出来上がるんだって。潜在脳というのは、脳の能力をピラミッドに例えた場合の「床面積」にあたるものなんだけど、3歳までにその床面積を広げてあげると、将来、その上に積み上げられる脳の能力が増えるんだって。で、その潜在脳を広げるためには、自然と触れ合わせるのが一番。たとえば手の上に虫を乗せたり、枯れ葉をくしゃっと握り潰してみたり、風の感触や花の匂いを感じてみることとかが大事なんだって。

中村:それ、もうちょい早く教えてくれないかなあ(笑)。

森沢:その話を聞いたのは、うちの上の娘が生まれたばかりの時で、僕はアウトドアの本を書くくらい自然が好きだから、試しにたくさん自然に触れ合わせてみました。その結果、将来どうなるかはわかりませんけど(笑)

――自然の中で子どもと遊ぶのは大切ですよね。

中村:昨今、自然が少ないから、難しいですね。僕らの時は、少し行けば川だの森だのがあったんですが、減っちゃった気がします。でも、大事なことは間違いない。

――お忙しいとは思いますが、夏休みでお子さんがいる時に自然な場所に行く予定とかあるんですか?

森沢:和歌山の清流に行くはずだったんです。去年はその川で泳がせてエビを獲って、焼いて食べたりとかしていたんです。今年も宿まで取っていたのに、子どもの諸事情で行けなくなってしまいました。1番楽しみにしていたのは、父ちゃんなのに(笑)。

中村:僕は夏休みはいないからね。毎週末試合でオフは1日だけなので、どこか泊まりに行くわけにいかないし。それはサッカー選手が家族に申し訳ない部分の一つですね。

――自然と触れ合うことが将来の子供にとって大事ということですが、ご自身のお子さんには将来どんな風に育ってほしいですか?

森沢:人生を楽しむセンスのある人になってほしいかな。仕事の才能がどうこうっていうのは、どれだけ自分が頑張るかにもよるし、頑張らない人生ってつまらないと思うし。チャレンジして失敗して学んで、次は上手くいく。そうやって結果的に人生は楽しいなって思いながら生きる人になってほしいと思います。憲剛も、自分の大好きなサッカーをやっていて、こんな幸せなことない。って言ってたよね?

中村:言ってますね。苦しいこともひっくるめて楽しんでますからね。

森沢:それこそが、人生を楽しむ才能なんだよね。そういえば先日、ウチの息子がサッカーの練習を休んだら、その翌日、コーチから「昨日、休んだやつはグラウンド20周!」と言われたらしいんですよ。それを聞いた僕が、息子に「20周走らされているとき、何を思ってた?」って聞いたら、「スタミナつくから、ラッキーって思った」って。

中村:ほお!

森沢:この超ポジティブな思考は、見習わなきゃと思ったよ。喜々として全力で走ってたらしいから。

中村:なかなかの逸材ですね。

森沢:憲剛も小中高大と練習が厳しかったけど、嫌いじゃなかったって言ってたよね。きつくても、これをやればうまくなるって。それに通じるなと思ったよ。

中村:それはね、理不尽じゃない範疇だったので。もちろん、なんじゃこりゃみたいな練習もありましたけどね。結局それも今となったら楽しい思い出だし。そういうので仲間と笑ったりとか、そこで連帯感ができたりするし。辞めちゃう奴は、サッカー好きだけどもういいやって、どこかで嫌いになっちゃうけど、僕は嫌いになったことないんだよね。だからまだまだいけるなって思う。

森沢:去年、「中村史上最高」って言ってたよね。あれ本当にそう思ってるでしょ?

中村:技術的なところも、考え方とか試合の流れとかもろもろ、トータルでそう思いました。今も更新してる実感がありますからね。

――お子さんにもそうやって取り組んでほしいと

森沢:生きてく上で向上心は大事だし、ないとつまらないから。僕も小説を書く時は、より精度を高く、より良く書きたいと思っています。

中村:前の作品よりも?

森沢:前の作品よりもというより、いつも「いまの森沢のベスト」を出したいかな。80点の作品でいいやと思ったら、小説を書くことはただの苦痛でしかなくなるけど、120点出したいと思って、ひぃひぃ言いながら書いていると、「よし!」って思う瞬間があるんです。そういう充実感のようなものを、子どもにも味わってほしいです。

中村:何をやるにしてもそうだよね。

森沢:限界まで頑張って、結果やりきったと思ってほしい。その方が人生は楽しいから。

中村:向上心を持っていてほしいですね、子どもには。

森沢:『永遠のサッカー小僧 中村憲剛物語』に書いていることを、子どもによく言い聞かせています。中村憲剛は、“頑張らないのが苦手な子ども”だったって。そういう人が、最後は日本代表になるんだよって。あと、憲剛がどうして、あんなにスルーパスが上手くなったのか。それは、身体が小さくて、当たられると負けちゃうから、トラップを磨いて当たられる前にパスを出す練習をしたおかげだよって。つまり、弱点があったからこそ、自分の得意技を磨けたんだから、キミにも弱点があっていいんだよって教えてる。

中村:子育ての教本になれたんなら、言うことないなあ(笑)。

森沢:息子は、コツコツやるっていうことを中村憲剛から学びました。最初入ったクラブチームで、一番下手って言われていたんですけど、最後は1番上手くなってましたよ。

中村:いいね、今の! これ赤文字で(笑)

森沢:中村憲剛の生き方って、今の子どもたちのお手本になると思います。高校、大学、プロ、それぞれのチームに入ったとき、周囲に上手い選手がたくさんいて、最初は練習にもついていけなくて。でも、自分も上手くなりたいと思ってコツコツやっていたら、最後はキャプテンになって、とか。そういう話を憲剛に聞いていて、「コツコツ力」を子どもに伝えたいと感じました。

中村:出た!

森沢:だからあの本はサッカーを頑張りたいと言っている同じチームの子たちにけっこうプレゼントしました。憲剛みたいに、諦めずにコツコツ努力する人生の方が、きっと充実して楽しいですから。

森沢:憲剛はなんでピンクアンブレラ運動をやろうと思ったの?

中村:フロンターレの地域活動で、児童虐待防止の仕事をしたんです。それで、僕も子どもが生まれて他人ごとじゃないなぁと思ったのが始まりですね。自分の立ち位置をうまく使って、世の中に発信したいという気持ちがすごく強くなった。そこから立ち上げまで3年くらいかかりました。

森沢:立ち上げるまで、結構かかってるんだね。

中村:すごく大きな問題だから、自分が出たところで、全ての問題がなくなるわけじゃない。もちろん、なくなればいいんですが、簡単じゃないというのは父親と何回も話をしました。

森沢:簡単ではないけれど、やらないよりはやった方がいい。

中村:自分が立ち上がることで気づいてくれたり、今まで周りに目がいってなかったけどいくようになったり、そういう人が増えてくれただけで、僕がこれをやっている意味があると思うんです。これは5年で止めるとかじゃないので、皆さんの協力をもとに、ずっとやっていきたいと思っています。その中の対談企画で、子育てとか、虐待やいじめに関しても、皆さんどう思っているのか聞きたかったんです。
この対談を読んだ森沢さんのファンが、友だちに広めてくれたりしたら嬉しいですね。TwitterとかFacebookやブログも森沢さんはやってるから、それがきっかけでみんなが興味を示してくれたらいいなと思います。本当に皆さんと対談させてもらって、4回目でだいぶ慣れてきたというか。僕が黙っていた方がいいというのがわかってきました(笑)。

森沢:聞き手がいないとね(笑)

中村:聞き手も必要ですし、対談もうまくやりたいです。このサイトは、そういう悲しい嫌なニュースを皆さんに発信している場だったりしますけど、まず何かをするのが大事ですよね。アクションを起こすと、もちろんネガティブなものも出てくる。でも僕は、ポジティブなものの方が多い気がするんです。問題はネガティブですが、やることはポジティブ。こうやってみんなでできればいいなと思います。
森沢さんには今回だけじゃなく、今後も是非協力していただきたいです。

森沢:もちろん。協力できることがあれば、何でも言ってね。

――虐待やいじめに遭う子どもが増えているニュースをよく聞きますが、それについてはどう思いますか?

森沢:まずは大人が幸せにならないといけないと思います。人生を楽しめる大人になれば、子どもに虐待なんてしないと思うんです。逆に、大人が不幸で、心の中に鬱積した黒いものが溜まると、一番身近で簡単なはけ口である子どもに被害が及ぶ。だからまずは黒いものを子どもに向けて発散する前に、大人が楽しんで幸せに生きる。それが大事だと思っています。

中村:それぞれ事情もあって簡単じゃないけれど、それはすごく大事なことだと思います。黒いものを溜めないようにって言いましたけど、虐待を止めるとかではなく、その前の話だと思うんです。大人が自分でどうにかできないのか、もう一回考えてみることで、今の立ち位置や、周りとの関係性とかがそうなる前に止められるんじゃないかと思います。大人が自分でアクションを起こすだけじゃなく、周りの人にアクションを起こしてもらったりしてもいいですね。

森沢:大人が何かの行動を起こす時に、「こういう人生って素敵かな?」って、1回1回自問して欲しいと思います。「子どもを虐待する人生と、子どもを愛する人生、どっちが素敵かな?」って。1度冷静に考えると、幸せなのはどっちか、わかってくると思います。

中村:愛する人生を選ぶし、そのためにどうするのかを考えると思います。

森沢:人を愛し愛する人生の方が、その先も絶対に楽しいし、いいことが待っている気がします。心の傷がその人にもあるだろうから、その傷を子どもに向けないためにも、その傷は大人同士で癒してあげるのが大事だと思います。

――最後にピンクアンブレラ運動について一言お願いします。

森沢:憲剛は子どもが好きだし、サッカーファンの子どもたちにとって憲剛はヒーロー的存在。そんな憲剛がこの運動をやってくれたことがすごく嬉しかったです。子どもたちが幸せな世の中というのは、もっとも成熟した世の中だと思うんです。だから、ぼくが小説を書く時に、いつも最初にイメージするのは、地球の裏側の子どもたちの笑顔なんです。いちばん遠くにいる子どもたちまで笑顔にする、そこまで届く小説を書きたいと思っているから。なので、子どもたちを幸せにするためにあるこの活動は、すごくいいなと思います。

中村:この活動がそのきっかけになればいいかな。

森沢:自分が虐待していなくても、「あの子虐待されているかも?」ってちょっとでも思った人がこの運動を知ったら、「あの子の親に声かけてみよう」とか、なるかもしれないし。とにかく小さいことでも、コツコツと前向きな方向に変わっていく運動になれば素敵だなと思います。

中村:ありがたいです。頑張ります。

一同:ありがとうございました。

 

森沢明夫
■森沢明夫 Akio Morisawa
作家。1969年、千葉県生まれ。早稲田大学人間科学部卒業。日韓でヒットした「虹の岬の喫茶店」は、吉永小百合主演映画「ふしぎな岬の物語」として2014年10月に公開予定。ベストセラー小説「あなたへ」と「津軽百年食堂」も映画で話題に。また「ライアの祈り」も映画化が決定し、2015年6月に全国公開予定。その他の作品は「癒し屋キリコの約束」「ミーコの宝箱」「ヒカルの卵」「大事なことほど小声でささやく」など多数。ノンフィクション作品「ラストサムライ 片目のチャンピオン武田幸三」では、第17回ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。
森沢明夫 official blog「あおぞら落書き帳」http://blogs.yahoo.co.jp/osakana920