中村憲剛のイクメン対談 第7回 渡辺明竜王 総集編

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中村憲剛とゲストが、育児の楽しさや喜びについて話し合う「中村憲剛のイクメン対談」。第7回は将棋界の最高峰タイトルである竜王位を10期獲得している将棋タイトル獲得数が歴代6位の実力を持つ棋士の渡辺明竜王にお越しいただきました。2013年発行の『将棋でサッカーが面白くなる本』で、交流があった二人。子育てや育児について独自の考えを語ってくれました。

――お二人は普段お子さんと接する時間はとられていますか?

渡辺:家にいる時間が多いので、接する機会はよくとっていますね。ですが、僕の息子はもう小学校6年生なので、だんだん接する時間が減ってくる時期に入っています。来年からは中学生になるので、年齢的にそんなに親と話さなくなりますよね。

中村:僕は平日に接することが多いです。上の息子が小学校から帰ってくるのが3~4時なので、そこから一緒に遊んだりしますね。朝仕事に行って夜帰ってくるお父さんより接する時間は多くあると思います。

――渡辺さんはお子さんと一緒にどんなことをされていますか?

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渡辺:僕も息子もサッカーが好きなので、よく一緒に見たりします。後は家にいることが多いので、食事も一緒に食べますね。でもこうやって向き合えるようになったのは息子が幼稚園になった時でした。20歳の時に子どもができたのですが、自分は末っ子ということもあって、小さい子にどう接していいか分からず、ほとんど妻に任せていました。でも息子が4、5歳になって体を動かせるようになってからは一緒にハイキングとか行けるようになって、うまく接することができるようになりました。

中村:今はいい関係が築けているんですね。将棋を教えたことはありますか?

渡辺:4、5歳の時に教えましたが、向かなかったみたいです。

中村:そうなんですか?

そうですね。性格的に向き不向きがあるので。棋士になってくれたらいいなとは思っていましたけど、6、7歳の時点で無理だなと思ったので厳しいですけど、教えるのは諦めました。

中村:将棋でプロになれるかって6、7歳で分かるんですか?

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渡辺:プロを目指すには小学生の頃から準備が必要なので。中学生くらいで始めて初めてもかなり厳しいと思います。強い子は小学校低学年で初段くらいはとるので。

中村:中村:え!竜王は?

渡辺:僕も7、8歳の頃は初段でした。

中村:すげー!でもトップ中のトップだからそれはそうか。サッカー界で言う(リオネル・)メッシみたいな子ですね(笑)。

渡辺:そういう上に行ける子って親に言われなくても自らやるんですよ。たぶんサッカーでもそうだと思いますが、親が無理やりやらせている子は厳しいと思います。

中村:確かにそうですね。自分から自発的にやれる子は勝手に伸びていきますもんね。

渡辺:自分の息子は伸びなかったですし、自発的にやる感じがありませんでした。

中村:ショックでした?

渡辺:ちょっとショックでしたね。でも将棋で親子揃ってプロになる人があまりいないというのも関係あるかもしれません。スポーツでは多いんですか?

中村:多くはないですよ。Jリーグ自体もできてまだ20数年なので、歴史も浅いですし。

渡辺:お子さんはサッカー選手を目指されているんですか?プロになってくれたらいいなとは思いますか?

中村:上の息子がサッカーをやっていますけど、なってくれたらいいですね。今、本人にやる気があるので、とてもいい状態です。

渡辺:お父さんがサッカー選手だから運動神経が悪いなんてことはないですよね?周りの子と見比べると上手い子ってだいたい分かるじゃないですか。

中村:自分の目が厳しいからというのがありますけど、正直そこまでじゃないかな。普通に見たら上手いのかもしれないけど、どうしても目が厳しくなるので。教える時もモチベーションが下がらないように心がけています。

渡辺:いろいろ考えているんですね。自分は本当に教えることが苦手でした。

――お二人は家の中で家事はされますか?

渡辺:僕は少しですね…って妻は言います。妻は取材とかで聞かれると「ほとんどやっていない」って。僕はやっているつもりなんですけど、洗濯などを手伝おうとすると、やり直しになるからやらなくていいって言われますね。できるのは食器洗いくらいです。

中村:それは“あるある”ですね。たぶん、私に比べたらやっていないってことなんだと思う。でもお父さんはみんなそうだよね。それを本人に強めに言うと怒られてしまう。だから男は黙っているしかない。(笑)。

――子育ての役割は家庭の中で決まっているのですか?

渡辺:改まって妻と話したことはないですが、ある程度分担はされています。息子がやっているサッカーの話は自分で、習い事や勉強の方は妻が見ているという感じですね。何かあったら、それはそっちの担当だろみたいな感じで押し付けるときもあります(笑)。

――お子さんが来年から中学生ということですが、今の息子さんを見て思うことや感じることはありますか?

渡辺:もう手が離れてしまう年齢なので、ここまで来るのが早かったなと思いますね。もうちょっとしっかり接しておけばよかったなと思います。

――どんな事をしておけばよかったですか?

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渡辺:もう少し、褒めて伸ばすようなことをしてあげたかったですね。僕は今32歳ですが、20代の時は自分に余裕がなくて。子育てを始めたのが早かったので、子どもを一人前に育てられる能力が身についていませんでした。子どもには悪いことをしたなと反省しています。でも30代になって、少し余裕ができて気持ちの持ちようも変わってきました。今の自分で一から子育てを始めたら、また違った結果になると思います。

中村:僕は3月に3人目が産まれたんですが、1人目ができた20代の時と今の30代の時ではぜんぜん違いますよね。

渡辺:1人目はいつ産まれたんですか?

中村:今小2なので、2008年です。

渡辺:20代後半ですよね?

中村:そうです。27歳の時。もし自分が20歳の時に子どもがいたら、子どもが子どもを育てるみたいな感じになりそう(笑)。

渡辺:そうなんですよ。妻にもそう言われていました(笑)。

中村:でも、お父さんってだいたい子ども扱いされません?

渡辺:それはありますね。世のお父さんを見ていても年齢を重ねている方のほうがいい子育てをしているなと感じます。よく「お父さん若くていいね」と言われるんですけど、実際そんなことないなって思いましたね。

――仕事と子育ての時間のバランスは、どうしていますか?

渡辺:僕は家にいる時間がとにかく長いので、子どもを見ている時間が長いんですよ。

中村:僕はタイムスケジュールは決めていないです。棋士だと家にいる時間が長いから決めていないということですか?

渡辺:そうですね。

中村:棋士は連続で試合があって、試合がないときはポーンって長期間日程が空くんですよね?

渡辺:そうです。3泊4日で試合に行くこともあれば、2週間試合がないこともあります。そうなると家にいる時間が多くなって、子どもの動きが全部見られるので、気になったことを注意ばっかりしてしまいます。外食に行くと、子どもが食べていてこのお茶こぼしそうだなと思うと、先によけてしまいます。

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中村:あ、先にね。

渡辺:先にやってしまうのはダメだなと思いますけど、こぼされたら拭くのは自分なので、先によけます。でも子どもはこぼさないと分からないですよね。

中村:その判断は難しいところですよね。分かるなー。

渡辺:何回かやったら子どもも学習すると思いますけど、でも結局自分がやってしまうから、どんどん子どもの成長を妨げてしまう。だから妻にもよく怒られます。

中村:口頭では言わないんですか?

渡辺:口頭でも言いますが、言っている間に自分の手が伸びてしまいますね。子どもは自立しなければならないので、そういう意味で育てるといった意識が足りなかったなと思います。今は気がついているだけいいのかもしれないですが、そこはすごく難しいと思いますね。

中村:さじ加減は難しいですよね。それは本当に分かります。

渡辺:でも面倒なことは回避してしまいますよね。

中村:それも分かる。

渡辺:正解はないのかもしれないですね。

中村:それは子どもが育った時に分かることかもしれないですね。

――子育てを通して学んだことは、と聞かれたらなどう答えますか?

渡辺:我慢(笑)。

中村:絶対奥さんに怒られる(笑)。

渡辺:子育て自体はうまくできなかったですけど、今は子どもと楽しくやっているので。

中村:それはそれで、お子さんが楽しくやっていればいいですよね。

渡辺:子どもと遊び始めるのは遅かったですけど、サッカーの繋がりが大きくて、そこから話すようになりましたし、よく一緒に出かけるようにもなりました。

中村:お子さんと試合を見に行ったりは?

渡辺:しますね。後は家で一緒にテレビで見ますし、雑誌も見たり。

中村:うちと一緒ですね!

――うまく子どもと接することができないお父さんがいる中で、そういうことをされているのはいいですね。

渡辺:何か共通のツールがあるといいですよね。僕の場合は将棋という繋がりが父親とあったので、毎週末一緒に出かけていました。だから父への反抗期とかもありませんでしたね。

中村:そうですよね。しっかりコミュニケーションとれていますもんね。

渡辺:何か没頭できる共通の趣味があるとうまく子育てができると思います。

――いじめと虐待についてにお伺いしたいと思います。
最近では北海道の小学生がしつけとして車から降ろされ、山林で行方不明になるという事件もありました。今回の事件についてどう思いますか?

中村:難しい話ですよね。今回の事件は1回怒って言うことを聞かないから車から降ろしたんですよ。そこまでは理解できるし、よくあることだと思います。自分もそういう時がありますし。1回怒っても本人がぜんぜん反省していない時は、2回目はもっと怒ります。ただ本人の目の前から消えてはいけないなと思いました。どこの家庭にもある話ですが、あそこまで大事になるなんて思ってもいなかったですよね。

自分も小さい頃親に怒られた時はベランダに出されたこともあるので、よくある話なのかなと思っていましたが、ここまで騒ぎになるとは予想もしていませんでした。最近自分の子どもに雷を落とした時に子どもが出ていくと言って出て行ったことがあったんですよ。それはさすがに追いかけました(笑)。それが大自然の中でとなると怖いですね。

――近年は子どもへの虐待が増えていますが、それについてはどう思いますか?

渡辺:虐待に関してはニュースや今回の活動で耳にしますが、僕の周りにあまり虐待という現場がないのが正直なところです。身近にないということはそういう子がいても他人が気づいてあげることは難しいのかなと思ってしまいます。あまり注視する機会がないですよね。

中村:なるほど、確かにそうかもしれない。

――では、そういう子の存在に気づくにはどうしたらよいと思いますか?

渡辺:でも、実際にいじめや虐待にあっている人がいるのは現実なんですよね。だから憲剛選手がこういった活動をされるというのは、とても大きいことだと思います。

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中村:目を背けたい話ですし、嫌な話ですよね。でも、そういうニュースはよくありますよね。自分ができることは少ないかもしれませんが、ここまで7回にわたって多くの方と話をさせていただきました。みんなでどんどん発信していければ少しはいじめや虐待は減るのではないかと思っています。

渡辺:被害を受けるのは、幼稚園や保育園の子たちが多いので、周りの生徒や先生が気づかないといけない。さすがに子どもたちにその役割を期待するのは難しいので、そうなると先生か親御さんしかいない。自分が実際に幼稚園に送り迎えに行っても、そういう目で見ることはほとんどないですからね。だからこの活動は本当に大きいと思います。
僕は小学校3、4年生の時にいじめる側だったことがありました。いじめている側は分からないんですよ。その年代だと、いじめられて自殺するとかも想像しない。当時は相手の親御さんから電話をもらうまでそういう自覚がなく、みんなでちょっとからかっているくらいの認識しか持てませんでした。少ししてから、大きくなってから、酷いことをしてしまったなと思って。自分の身近にあった分、そういう子がいたら真っ先に声をかけてあげたいですね。

中村:なるほど。

渡辺:例えば子どもが家に友達を連れてきて、ゲームをやってもやれる人数が限られていて、できない子とかいるじゃないですか。

中村:そういうの分かります。集団で何かがあると、言っていることとか、言われていることが空気で分かりますよね。もしやっている子がいたら言うし、やられていても言うし。自分の家に遊びに来ている子は自分の子どもでなくても言います。それはその子のためになるので。大人は言えることと、言えないことがあるけど、それは遠慮なく言っていいと思います。

渡辺:いじめは虐待に比べて身近にあるので、注意しやすいですよね。

――言い方もそれぞれあると思いますが、どのようにされていますか?

渡辺:僕は強く言わないです。「それはちょっとダメなんじゃないの?」みたいな感じですね。他の子にはあまり言えないですから。

中村:確かにそうですね。集団の中で言うか、それともみんなが帰ってから言うか。それだけでも子どもの捉え方はぜんぜん違いますよ。みんなの前で言われたら受け取り方も違うし、みんなの前で言わないといけない時もある。自分の中でこれはダメだっていうのがあれば自分は言いますね。

――そうすることで信頼関係って生まれてきますよね。

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中村:そうですね。自分と息子の信頼関係があります。

渡辺:でも難しいですよね。自分の息子は来年中学生ですが、LINEいじめとかもありそうですし。

中村:いじめを減らすのは難しいかなって思うのが正直なところです。どこに基準があるのか分からないので。

渡辺:自分の子どもを注意することくらいしかできないですよね。

中村:いじめを無くすにもまずは自分の息子には芯を持たせないといけないと僕は思います。そのしっかりした芯の判断基準は親がやるべき。そのためには小さい時から自分のものさしで話をして向き合わないといけない。しっかり妻と話し合っていかないと。

渡辺:親と子どもは似るから言うこと聞かない子どもだと、そういう親は注意しない。だから自分たちが注意しないといけないですよね。

中村:地域で見られたらいいですよね。自分の親もそうだし、隣近所の人たちも。お互い言い合えるような環境があればいいなと思います。

――最後に、今日の対談の感想をお聞かせください。

渡辺:僕は20歳の時から子育てをしていますが、子どもと共に多くのことを学んできた12年間を振り返ることができました。今は子どもと楽しくやれていますし、年もそんなに離れていないので、子育ては大変ではありますが、頑張っていこうと改めて思いました!

中村:まさか竜王がそんなパパだったとは思ってもいませんでした(笑)。目を背けたい話ですが、色々なことを知れるこの対談は得られることも多くて、やっぱりいいなと思います。普段の生活でこんな話はしないので、とても勉強になりました!

 

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■渡辺明 Akira Watanabe
棋士。1984年、東京都生まれ。2000年4月にプロ入りを果たすと、2004年の第17期竜王戦で初タイトル獲得。翌年には史上最年少で九段に昇段 し、2008年に永世竜王資格者となる。2013年には第62期王将、第38期棋王を獲得し、史上8人目の三冠王となった。現在(2016年8月時点)は竜王、棋王の二冠。踏み込みの良い棋風とともに、明確な解析能力に定評がある。また、自ら立ち上げた将棋連盟フットサル部の部長もつとめており、月に一度のペースで関東の棋士や関係者でボールを蹴っている。